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カラタケ日記

派遣社員から契約社員になって9年経過。思いついたことを書いてます。

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ルポ・警備員は見た 派遣作業員が働く大手倉庫会社の労務管理 ID:c0eihu

2008年にJanJanニュースに投稿して掲載された記事です。

ルポ・警備員は見た 派遣作業員が働く大手倉庫会社の労務管理
JanJanニュース    辛島武生2008/10/14


大手倉庫会社で11ヶ月間、作業員の入退室を管理する警備員のアルバイトをした。最も就労が不安定な日雇い派遣の作業員が最も喫煙率が高い。国民年金も払えない作業員が多い。倉庫会社は業績とにらみ合わせて作業員をどんどん減らしていく。「経営判断」には、そこで働いているのが生身の人間であることなど全く考慮になかった。


金属探知機で入退室をチェック

 2007年11月から2008年9月末まで、大手S倉庫内で作業員の入退室管理を行う警備員のアルバイトをした。出入口に設置された金属探知機を使い、退出者をチェックする仕事だ。作業員はもちろんのこと、取引先の顧客であっても倉庫内から退出する際は、必ず金属探知機を通過しなければならない。例外はない。
 

 警報が発報したらハンディタイプの探知器を使用して、より詳しい検査を行う。空港で飛行機搭乗の際、行われているのと同様の検査体制だ。1年半前に建てられたS倉庫の顧客は、パソコン周辺機器の大手メーカー。大手量販店数社からの発注伝票によって作業員がピッキングし、発送する物流倉庫として機能している。アイポッドやメモリーなど、手の平サイズの商品が数多くあるため、盗難防止の目的で金探が設置されていた。

 165人と31人。今年9月時点の倉庫内で働く作業員の男女の数だ。割合にすると5.3対1となる。そのうち、派遣業者の正社員は男25人、女4人。

 男140人、女27人の計167人が、派遣作業員またはアルバイトだ。1人1人に確認したわけではないので正確な数字ではないが、大幅には外れていないと思う。

男性は7割、異常に高い喫煙率

 ところで、タバコだ。見ている限りでは、男女とも喫煙率が高い。正社員を含めた男性作業員の約7割、女性作業員の約4割が喫煙者だ。

 どうして分かるかというと、タバコや菓子類を包む銀紙にも金探が反応して発報する。そのため、ポケットから取り出して、携帯などと一緒に直前のテーブルに置いてもらう。だから、目視で喫煙者がどうか確認できる。低く見積もっても男6割、女3割以上が喫煙者だ。

 日本たばこ産業の「平成19年全国たばこ喫煙率調査」によると、成人男性の喫煙率は40.2%だった。そのうち30歳代がもっとも高く47.8%だ。

 一方、女性の喫煙率は12.7%で、最も高い数値が30歳代の18.9%となっている。この調査と比べると、S倉庫作業者の喫煙率約3割は高い数字だといえよう。作業員の主力は男女とも30歳代だ。

 喫煙率は、ホワイトカラーよりブルーカラー、高所得者層より低所得者層、高学歴層より低学歴層のほうが高い傾向が世界的に示されているという。 

 いくつかの日雇い派遣の現場で働いた私の印象としては、日雇い派遣作業者の喫煙率はたばこ産業の調査が示した数字より、かなり高いと感じた。ただし、大卒が多いと目されるIT関連業務専門の派遣作業員の喫煙率は、他の派遣現場に比べ低かった印象を持っている。 

 ブルーカラー・低所得者をキーワードにすると、派遣作業員の喫煙率が高いのは世界的傾向から外れてはいないことが分かる。

 タバコの害が健康に及ぼす影響は、くどい位にアナウンスされている。職場内での分煙もかなりの割合で進んでいる。したがって、嗜好品として扱われるタバコの喫煙は、最終的には各個人の考え方だとも結論付けられよう。


健康診断さえ受けられない日雇い派遣

 また、健康管理に対する職場ごとの取り組みの差もあろう。派遣作業員でも健康診断は受けられる。S倉庫の派遣作業員も定期検診を受けていた。

 健康管理に対する意識が高い職場であれば、雇用形態(正社員、アルバイト・契約・派遣社員など)に関わらず、健康診断を受けることができる。禁煙指導などを積極的に実施することで、そこで働く人の健康が保たれ、結果的に生産性の維持・向上につながるだろう。健保組合を持つ大手企業であれば、医療費負担の軽減にも役立つ。

 しかし、日雇い派遣の場合は対象から外される。私が以前、日雇い派遣の作業員として働いていた製造工場では、検診を受けることができなかった。長期契約(といっても1カ月)の派遣社員は受けていたので、日雇い派遣として働く作業員は、自身で健康管理するしかない。

 ところが、その日暮らしの日雇い派遣は、国民健康保険の保険料を払っていないケースも珍しくない。センセーショナルな表現をすると、日雇い派遣の関心は日々を生き抜くことにあり、「健康」ではない。その日を生きることが当面の目標となる。そうした意味で「健康」とは、「余裕のある生活者の関心事」ともいえよう。

 貧弱な食生活をおくっている日雇い派遣は、近い将来に高い確率で成人病の発症が予想される。日雇い派遣が放置されると、国の医療費負担が増加し財政圧迫の一因となることが予測されよう。


国民年金加入など「とんでもないこと」

 さらにいえば、国民年金の加入などとんでもないということになる。派遣社員ではないが、職場の同僚だった45歳のKさんは、年金を払っていない。長年、建築現場で働いてきたが、作業中のケガで半年間入院。その後、ケガは直ったが、身体に負担のかかる仕事は困難になったため、警備会社のアルバイトに応募して働いている。

 労災が適用されたので入院費と当面の生活費はなんとかなった。「これから先の50歳、60歳とやれる仕事は警備しかないですよね」と私に同意を求める。最初の就職で厚生年金を4~5年かけただけ。その後はまったく払っていない。いつもため息ばかりついていた。私は、この先どうするのか、とは聞けなかった。

 アルバイトでも社会保険の加入は可能だ。警備会社と交渉する余地はある。しかし、その場合、原則として給料の月払いが前提条件となる。週払いで受け取っているKさんは、その分を1週間で使い切ってしまう。最終日には、数百円しか残っていない。パチンコや酒が欠かせないからとも聞く。貧困者の中には、Kさんのような自身の生活態度が原因となっている例が少なくないのも事実だ。

 日雇い派遣に登録しているCさん、フリーターのIさん、2人とも30歳を過ぎているが年金はかけていない。「俺たちが貰えるころには年金制度は崩壊していますよ」と言い放つ。そうかもしれないが、そうでないかもしれない。

 年金の負担は、将来の自身のために払うのではなく、現在の制度を維持するためだという認識はない。この国の将来に対して、疑問だけが大きく膨らんでいく。今の生活を維持するだけで精一杯の彼らに30年先の未来は描けない。確かなことは、今が暮らしにくいということだけだ。


倉庫で10時間働いた後は居酒屋でバイト

 格差社会の中で貧困層に位置づけられて暮らす人たちの声は、思ったより悲痛ではない。大部分の人たちは、叫んだりしない。そんな、みっともないことはできないと自身に言い聞かせているかのようだ。懸命に働かされていて、不満を口にする余裕がないのかもしれない。

 昼1時から、物流倉庫でピッキング作業をしていた20代のB子さん。10時間働いた後は、居酒屋で洗い場のバイトだ。ヨロヨロと歩いているので「どうしたの」と尋ねると、「眠い」という。「頭が割れそうに痛い」という時もあった。でも、陽気だ。鼻歌交じりで金探の私の前を通過していた。

 腰痛の持病がある50代のEさん。ピッキング作業の中で、中腰の姿勢がキツイと嘆く。お盆休みが続いた時は、アルバイトで警備の仕事がないかと私に尋ねてきた。飛ぶように歩き、みんなを追い越していく。朝、コンビニで買った弁当を手に提げてやってくる。

 コンビニの賑わいをみていると、錯覚に陥ることがある。朝、昼時、そして深夜、ホワイトカラーもブルーカラーも同じように、おにぎり、弁当、サンドイッチ、飲み物などを手に、レジ待ちしている。みんな大差ないな、と思う瞬間だ。同じようなものを食べている。年収1,000万円を優に超えるであろう、物流倉庫の所長もレジ袋の中身は特大カップラーメンだ。スーツを脱いだら、ワーキングプアの作業員とほとんど区別はつかない。


「業績不振」と、1年で作業員を3分の1に減らす

 だが、目を凝らすと歴然とした格差がある。我々は彼の支配下にある。派遣業者の正社員を含め500人近くいた作業員は、所長の判断によって開業1年で3分の1にまで減らされた。理由は業績不振だ。取扱い量の落ち込みもあるが、作業効率の悪さも要因とされる。したがって、人員削減による経費削減を実施するとともに、作業体制の大幅見直しが図られた。

 その結果、当然だが、1人当たりの作業量が大幅に増えた。当初は、日勤者の残業時間が増えたものの、夜勤者が早く帰れるようになり、うまくいったかに見えた。しかし、9月になって荷物量が増えた。そのため、半数の日勤者は夜10時まで、通常朝5時前に終了していた夜勤者全員は朝7時過ぎまで残業するようになった。「年末に向けて、荷物が増えて行くばかりで、これからどうなるのだろう」と、派遣業者の日勤社員はこぼした。

 また、同時に、作業効率の悪さから当初5社あった派遣業者を3社に絞った。そして、10月はさらに1社が撤退した。人員については、残った派遣業者が撤退した業者の人員を引き継いだ上で、不足人員を新たに手配するケースが多い。


はじかれた派遣作業員は「代打」専門要員に

 それは同時に、時給1,000円の派遣作業員の選別も意味する。勤怠評価の思わしくない作業員は、派遣先と派遣元によって選別が行われる。そうしてはじかれた作業員は、選ばれた作業員が急に休む場合や休日要員としてのみ、代わりに来るようになる。

 平日に見なくなった50代男性のDさん。日曜日だけになり、「平日は他の現場に行っている」と教えてくれた。個人の労働力を絞り出すことで、企業という組織を支える仕組みが、多くの派遣作業員が働いているS倉庫でも当然のように行われている。

 末端の現場は、改善はされていない。相変わらず、派遣は搾取されている。大企業が経費節減を実行するための道具として派遣作業員を利用している実態を、S倉庫でもみることができる。

 40代の所長は、経営上の判断をしているだけだろう。ほとんど毎日、倉庫内に入っているので現場がどのような状況にあるかを充分に把握している。現場の責任者として、本社の要求に応えているに過ぎないのだ。

 S倉庫社員の、作業員に対する態度は丁寧で紳士的だ。洗練されていると言い換えたほうがいいかもしれない。大企業の社員として教育され、自覚を持って働いている。個別に話せば気のいい人たちが多い。だが、本社の意向に沿った経営を実践している彼らは常に決断する。彼らにとって派遣作業員は、雇用の調整弁としての位置づけでしかない。


企業判断の基準は合理化、作業員の事情とは無関係

 大手警備会社の下請けとしてS倉庫に入っていた私の現場も9月末で撤退となった。

 撤退の理由はやはり経費節減だ。物流倉庫の警備は大手警備会社が請け負っている。S倉庫が、大手警備会社に経費削減を持ちかけた結果、金探の撤去が提案されたらしい。入退出者の管理はその後、電子錠を取り付けて行われている。

 事業開始当初、実際に、服の下に商品を隠して持ち出そうとした作業員がいた。責任者のSさんがハンディタイプの金属探知器でチェックして、発見した。警察ざたにはしなかったらしいが、その作業員が所属していた派遣会社自体が出入り禁止となった。

 また、トイレ内に商品を隠していたのを、Aさんが発見したこともあるらしい。後で持ち出す計画だったようだ。それは、S倉庫の判断で犯人捜査はせずに商品を回収しただけで済ませた。そうした例をみると、金属探知機は、出入り口を利用した正面切っての商品持ち出しに対し、抑止効果が実証されたと捉えることができる。

 だが、作業メンバーが固定されたことから盗難の懸念は大幅に低下した。人手のかかる金属探知機は不要と判断されたようだ。加えて、現在、24時間体制で行われている作業についても、来期からは夜勤作業が打ち切られ、日勤のみで対応することが検討されているともいう。

 企業は実質的な経営判断を下すだけだ。そこで働く我々の事情については、まず考慮されない。
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間違えないでほしい、我々は働く人間である!!

[日雇い派遣] ブログ村キーワード
 2008-02-24 オーマイニュースに投稿し、掲載された記事です。一部、加筆しました。

 2007年9月の日曜日、短期派遣専門の人材派遣会社オープンループパートナーズがインターネットで募集している日雇い作業に応募して働いた。

 メールで応募すると、同社から電話連絡が入り、仕事内容の詳細等が告げられる。不採用の場合はメールでの回答だ。

 応募した仕事は東京都内での事務所移転作業。午前9時〜午後5時までで交通費込みの日当は8000円。同社は日当を翌日に指定した銀行に振り込むシステムを採用しており、実際の手取り額は振込手数料105円を差し引いた7895円だった。

集合は2時間前。でも拘束時間には含まれず…

 最寄り駅への集合時間は午前7時だ。オープンループパートナーズの担当者が集合場所となる改札口を間違えて、応募した10人前後の作業員に告げていたため、全員がそろったのは7時30分ごろだった。

 そこから現場までは徒歩で約15分。1日限りの引っ越し現場なので、行き方は誰も知らない。オープンループパートナーズに電話で住所と道のりを確認し、現場に着いたのは8時前。オープンループパートナーズと、派遣先となる運送業者の担当者どちらも不在のため、依頼主に作業現場であることを確認して、我々は待機した。

 以前、派遣業者のプレミアサービスで、1日だけ印刷工場での作業に従事した時も2時間前に集合させられた。その時は、案内役のプレミアサービスの社員が1時間40分遅れてきて、始業時間ぎりぎりに現場に入った経験がある。

 作業開始前からの長時間拘束は、毎日異なる作業者と一緒に働くことになるので、コミュニケーション不足による不手際が頻繁に発生することを前提とした結果の対応策であるとも受け取れる。

 だが、それは時間給で働く作業員の側が負担するのではなく、拘束時間として賃金が保障されるべきだろう。日雇い派遣現場の大半が作業開始約2時間前の集合を義務付けている現状は改善されるべきだ。

緊張感のある現場で、従順を求められる作業員

 オープンループパートナーズでの作業内容は、エレベーターのある4階建てビルから、隣接する階段しかない3階建てビルへの事務所移転作業だ。遅れてきたオープンループパートナーズの担当者は、遅れた理由を説明することもなく我々に作業着の入ったダンボールを渡し、適当に選んで着替えるよう指示した。

 場所は、私道に止められたオープンループパートナーズのワンボックス車の周辺である。青色のズボンとオレンジ色のTシャツに着替えながら、今まで路上で着替えた経験があったかな……と記憶をたどってみたが思いつかなかった。こんなところを知り合いに見られたくはないな、と思いながら急いで着替える。

 小雨が降っていた。力仕事なので晴天よりマシかなと思う。日当8000円の1日限りの仕事だ。こんなものだろう。深く考える必要はないのだ。

 作業中、20歳代の派遣作業員が会議用のテーブルをひとりで運んでいたら、室内を傷つける恐れがあるため、軽くても2人で運ぶようにと注意された。作業員が返事を怠ると、責任者である50歳代の運送業者が「返事は!!」と、野太い声ですごんだ。


 非は、返事をしなかった彼にある。しかし私は、運送業者の態度が、彼に対する、単なる作業上の注意ではなく、それを超えたどう喝であると感じた。少なくとも私はそう受け取った。運送業者が直接雇用しているアルバイトに対しては、同じようなミスでも、どう喝することはなかったからだ。

 日雇い派遣であるわれわれは、作業する上で、雇用主に対して常に従順で、必要以上の緊張感を持つことを要求される。彼らの目をまともに見て話してはいけないのだ。派遣作業員は、卑屈さを備えることが欠かせない条件の一つであるとさえ思う。

もちろん、すべての現場がそうであるとは思わない。だが、日雇い派遣のポジションはそんなもんなのだ。実際に、働いてみて。

 派遣ユニオンが先日、実施した「グッドウィル失業ホットライン」に寄せられた相談事例の中に、「犬のように扱われていると感じる」という訴えがあった。確かにそう感じることがある。

 でも間違えないでほしい、われわれは働く人間である。あなた以上ではないかもしれないけれど、あなた以下ではない。

グッドウィル失業ホットラインを設置

 派遣ユニオンではグッド社の事業停止に伴い、日雇い派遣労働者の相談を受け付けるため、2008年1月18~24日(各12~19時)の7日間「グッドウィル失業ホットライン」を設置した。相談件数は55件(男48人、女6人、不明1人)。うちグッド社以外の日雇い派遣会社に関する相談が6件あった。主な事例は次のとおり。

 [兵庫県・男性]週3~4日、グッドウィルのスポット派遣で働いていたが、業務停止に伴い18日から仕事がストップするといわれた。他の会社にも登録しているが、なかなか仕事が見つからない。無収入の母親と月12~13万円程度のスポット派遣の収入のみで暮らしているが、生活に困ってしまう。

 [千葉県・男性]グッドウィルの事業停止で仕事がなくなるので、他の派遣会社で仕事を決めた。ところが月給制なので1カ月先まで賃金がもらえず、それまでの生活費がない。

 [男性]1年半くらい前からほぼ毎日グッドウィルでのレギュラーやスポットで働いてきたが、事業停止の影響で1月から仕事がなくなり、今後は仕事を紹介できないといわれた。他の派遣会社にも登録しているが年齢(59歳)でハネられてしまう。妻が他界し一人暮らしだが、生活に困ってしまう。

 [三重県・男性]12月26日を最後に仕事が回ってこない。収入が閉ざされるが、何か保障はないか。

 [東京都・男性]レギュラーで入っていたが仕事が1月いっぱいで切れてしまう。派遣先では長期で働いてほしいといわれた。4カ月同じ派遣先で働いていて、派遣前に「顔合わせ」があり、2人のうち私が選ばれた。

 [岡山県・女性]日雇い派遣で働いているとき、嫌がらせで突然派遣先から「お金は払いません」「サインもしません」といわれた。違う現場でも同じようなことをいわれた。日雇い派遣スタッフは、犬のように扱われていると感じる。

 ■派遣ユニオン連絡先
 東京都新宿区西新宿4−16−13 MKビル2F
 電話:03−5371−8808


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「毎日辞めることばかり考えていた」

2007-08-30オーマイニュースに投稿し、掲載された記事です。一部、加筆しました。
大阪・東芝生産ラインの現場から


中指がカクカクと動くようになった。生まれて初めての経験である。
その症状をネットで検索すると、腱鞘炎らしいことが分かった。軽く拳を握った状態から、指を伸ばそうとすると、付け根の部分で一度ひっかかった後、勢いよく弾かれたように動くことから「バネ指」と称するらしい。
エアードライバーを使いはじめて約2週間が過ぎた頃からの現象だ。

時給900円、交通費1日500円

私が大阪府茨木市にある東芝家電製造(太田東芝町)に派遣されて、家庭用冷蔵庫を生産しているライン作業に従事したのが2006年5月29日だった。

5月の連休明けに、大手人材派遣会社クリスタル(2006年11月グッド・ウィルが買収)のグループ企業クリスタルサービス(現グッドウィル・プレミア)茨木サテライトに登録してから半月後に紹介された定番(派遣先の営業日に従事すること)の仕事だ。

時給は900円で交通費は1日500円。始業時間は朝8時。始業時刻にラジオ体操の音楽が工場内に流された後、朝礼があり、実際にラインが動くのは8時10分頃からだ。朝10時と午後3時にそれぞれ10分間の休憩があり、昼休みは12時10分から午後1時までの50分間だ。定時の終業は午後4時45分で実働7時間45分になる。残業の場合は、定時終業後10分間の休憩を挟んで行われる。

当時の従業員は約800人で、人材派遣会社が東芝からライン作業を請け負い、大型冷蔵庫を生産していた。冷蔵庫の組み立てを行うのはA・B・Cの3ライン。

私が配属されたのは同じくクリスタルグループの中核をなす大手派遣会社コラボレート(シースタイルと合併し、現プレミアライン)とその子会社・シースタイル(現プレミアライン)が受け持つA・Bのライン中の、Aラインだった。

Cラインを請け負っていたのは同じく大手派遣会社の高木工業だ。各ラインに40~50人の作業員が配置されていた。そのほかの派遣会社としては、フルキャスト、フジワークスなどだ。

クリスタルは、コラボレートの不足人員を補う形で人員を補充していた。私が東芝の仕事を紹介された時、1週間ぐらいの仕事と聞いた。その際、解雇通知等の条件就業条件に関する説明はなかった。

「制服は、この中から適当に選んで」

同日に派遣されたのは私を含め3人、30代と50代の男性だ。3人とも1週間続いていた。その後、派遣された20代の男性は室温が40度を超える暑さの発砲スチロール製造作業に耐え兼ね、翌日には辞めたという。

初日は、7時50分頃に到着したが他の一人が遅れたため午前8時30分頃まで待たされた。その後、勤務時間、仕事内容、制服の支給、食堂・売店など工場内施設の簡単な説明を受け、現場担当者に引き継がれて配属先が決められた。私は他の2人と別れ、製造ラインに連れて行かれた。

「制服は、この中から適当なものを選んでください」と言われ、洗濯はしてあるらしいが、段ボール箱の中に投げ込まれ、皺だらけのLサイズの半袖上着を1着と別の箱に入った帽子を選んだ。1着しか支給されないため、1週間、同じ制服と帽子を着て作業した。洗濯は、毎週末に自宅に持ち帰って行った。ズボン、靴は自分の持ち物を使用した。軍手は、支給品で、洗ってあるものを各自が、選んで使う。

工場内には、エアコンの冷風がダクトを通して供給されていた。各ラインごとにスポットエアコンが、2~3人に対し1つの割合ぐらいで配置されているが、作業者全員分はない。当然、古参の作業者が優先的に使用するため、新入りは一日中、汗をかきながら作業に当たることになる。

ラインに向かって立つと約20メートル後方に部品の搬入場所があった。頻繁にトラックが出入りしていてシャッターは上げられたままの状態だ。そのため、外気が進入してくる。工場内は、外に比べやや温度が低い程度の環境にあり、ライン作業者全員が汗だくであったことに変わりはない。

人材派遣会社クリスタルは、同じグループの人材派遣会社コラボレートからの要請で、作業員を派遣していた。そして、コラボレートが直接雇用している場合の賃金条件は、時給1000円、交通費は別途、月1万円だ。

ライン作業で隣り合ったコラボレート所属の派遣社員Kさんの話で分かった。クリスタルからの派遣社員とコラボレートの派遣社員が、行う仕事内容は同じだ。しかし、コラボレート所属の派遣社員に比べると私の賃金は、時給で100円少ないことになる。

コラボレートは無料就職情報誌の大手・アイデム関西版等で募集していたらしいが、就業条件が長期(3カ月以上)となっていたようなので、スポット(不定期での就労)を条件に探していた私にとっては対象外の仕事でもあった。

駅から徒歩20分の道のり

自宅からの通勤手段は阪急京都線を利用した。自宅からの最寄駅「正雀」から同工場の最寄駅「総持寺」までの料金は180円(同区間の定期代1か月6670円)。「正雀」までは自宅から自転車で約10分。「総持寺」から工場までは早足で約20分。東芝行きバスは「総持寺」手前の「茨木市」駅から約10分間隔で運行していた。しかし、片道200円のため派遣社員の利用者は少ない。電車を利用する工員の大半が「総持寺」から徒歩で通った。

私は、朝は徒歩、帰りはバスを利用しようと決めていたが、半月を過ぎた頃から疲れが溜まり、朝・晩、バスを利用する機会が多くなった。

もし交通費の負担を気にせず、自宅から公共交通期間を最大限に利用すると、徒歩約5分のモノレール「摂津」駅を利用して「南茨木」駅まで行き、阪急京都線に乗り換え、「茨木市」駅で降り、バスで東芝の工場前で下車する経路となる。「摂津」~「総持寺」の乗車料金は390円(定期代1カ月1万4700円)。「摂津」~「茨木市」は390円(定期代1万3780円)。このルートの交通費は、片道590円、往復1180円になる。

クリスタルから支給される交通費は1日500円だから、上記の公共交通機関を最大限使うルートは採れない。節約のため、総持寺駅から徒歩で通うルートを選択する機会が多かった。

500円の交通費で、月20日出勤すると1万円となる。正雀から総持寺までの定期を購入すれば支給される交通費だけで充分まかなえる計算になる。が、同程度の距離を通う工員のほとんどは、その都度、切符を購入して電車通勤していた。

「今日1日働いたら…」

というのは、長く続けられる仕事かどうかを数日働いた上で判断するからだ。定期の購入は、どうしても後回しになる。私の場合、本業の様子をみながら働いてみて1週間で辞めるつもりでいた。けれども、本業の方は、しばらく動きだしそうもなかった。クリスタルからの要望もあり作業を継続したが、毎日辞めることばかり考えていた。

「今日1日働いた後、派遣会社に辞めることを告げよう」。毎朝起きるたびに、繰り返し思った。毎日、辞めることを考えていたら、定期券を購入する気はなくなる。
定期を購入すれば交通費の負担が軽減されるのは分かっていたが、一括で6000円前後を支払うのが負担になるようなギリギリの生活状態にあったともいえる。

大半の登録者が、給料の受取方法として日払いを選択しており、週に1回の割合で給料を事務所に取りにいっていた。日払いは、月・火・木・金の午後3時~7時までに、事務所に受け取りにいくシステムになっていた。

日払いを選択しているのは主に学生、主婦、ダブルワーカーなど、他に主体となる仕事を持っている人たちが多いようだ。空いている時間を使ってスポットの仕事をこなすため、給料の受け取り方法として好都合なのは、日払いだろう。

だが、それ以外でも日払いを選択している派遣社員は多い。
派遣業者に登録して日払いを選択してしまうと、月払いに変更するのが難しくなる。受け取った現金は、当座の生活費として使ってしまうからだ。その中から、例えば光熱費など毎月決まった支払いを捻出し、月払いに切り替えるための計画性を発揮していくことは、容易くないと実感した。

突然の解雇通知

工場側が不要とみなした場合、仕事がなくなることがある。事実、働き始めて約3週間後の6月20日に突然、解雇を通知された。始業前にクリスタル登録の派遣社員が集められ、今日で東芝の仕事は終了だ、とクリスタル梅田サテライトに所属する社員から告げられた。

前日、クリスタル茨木サテライトに、毎日、義務づけられている出勤(出発コール)と終業(終了コール)の電話連絡を入れた際、そうした話はなかった。

梅田サテライトの社員と面識のなかった私は、説明した当人がクリスタルの社員であることを確認した上で、解雇の理由を尋ねた。詳しい説明はなかったが、コラボレートから依頼されていたクリスタルが一方的に契約を切られたのが原因らしかった。説明にあたったクリスタルの社員2人が、困惑した顔で話した。後日、聞いたことだが、クリスタル側に対する契約破棄の通知も当日だったらしい。

始業時間15分ほど前に告げられた話であることから、クリスタル所属の派遣社員はまだ出社していない者も数人いた。そのため、終業後にコラボレートの事務室内で再度説明する旨を告げられ、我々は仕事に取りかかった。

その日の作業終了後、顔見知りの茨木サテライトの担当者の説明によると、クリスタルに所属している派遣社員は、本日付けで解雇されるという。クリスタルは他の仕事を斡旋するが、東芝での仕事継続希望者はクリスタル替わって、コラボレートの出資会社で派遣会社の�シースタイル(現プレミアライン)と雇用契約を交わした上で、東芝での仕事を継続させるというものだった。

唐突な内容ながら熟慮の時間は与えられず、明日の終業時間後までに返事をするよう即断を迫られた。
結局、約20人いたクリスタル所属の派遣社員のうち東芝の仕事を継続したのは4~5人だった。それ以外はすべて東芝の仕事を辞めて、クリスタルが斡旋する他の仕事に就くことを選択した。当初から辞める気でいた私は、日払い制度がないシースタイルで仕事を続ける理由がなかった。

翌朝、辞めることをコラボレート所属のリーダーに報告すると、そうした事情について何も知らされていなかったため「唐突な話で困る」と言う。リーダーとはいえ我々と同じ派遣社員の立場にあることから、派遣会社内部の事情までは知らされていなかったらしい。

有能で好青年のリーダーは、すぐコラボレートの事務所に行き、シースタイルにも給料の旬払い制度(1日3000円を上限に、月末締め10日払いと、10日締め20日払い。通常の支払いは、毎月20日締め翌月5日支払い)があることを教えてくれ、東芝での仕事継続を要請された。

私は、経済的理由からシースタイルと雇用契約を交わし、東芝での仕事を継続した。労働条件通知書兼就業条件明示書に記載された雇用条件は、時給1000円、通勤手当1カ月5000円。契約期間は6月21日~6月30日まで。更新または期間延長の可能性(あり・なし)の部分については「あり」がマルで囲まれていた。

「今日のは外れやな」作業担当変更へ

私のいた、庫内に部品を取り付けるラインの長さは約30メートル。ラインに向かって立つと右手方向からボードに乗せられた本体が流れてくる。その後に続くドア取付と仕上げ作業が同一直線上にあり、合わせると約60メートルあったようだ。

ラインに沿って深さ約40センチ;、幅約70センチ;の溝が設けられており、冷蔵庫本体中央部分までの作業は作業員が溝の中に入って行う。冷蔵庫中間部分の作業は、側溝に蓋をして床面と同じ高さに立って行う。最上部は、設置された足場の上に乗ってそれぞれ取り付け作業を行う。作業員の男女の割合は半々。当然ながら、腕力を要する仕事は主に男性、女性は比較的軽い部品の取り付けを行っていた。

私が配属されたのはBライン。リーダーのY氏は30代前半で細面のヒョロッとした痩せ型タイプ。人懐っこい笑顔で話す温厚型の好青年。担当するライン作業すべての工程に精通していて、作業上で問題点があると、飛んできて即座に解決してしまう。担当ラインの作業員約15人からの人望も厚く、問題への対応能力は高い。

ライン作業で最初に担当させられた仕事は、ラインの中で最も体力を消耗する仕事だった。冷蔵庫本体最下段部分の引出し収納部にカバーをはめ込み、ドライバーでネジ留めする作業だ。

カバーをはめ込むのに相当の力を要した。カバーの成型加工の精度が低いため簡単に嵌らない。最初に、カバーを両手で持ち、はめ込み穴に合わせて押し込むのだが、かなりの力を入れて押し込んでも大半のカバーがうまく嵌らない。カチッという音を立ててはまるのは10個のうち2~3個の割合だった。

初日は、Cラインからの応援1人が私に仕事を教える形で居た。午前中は2人で作業に当たり、私は部品を手渡すなど補助的な仕事に回った。午後からは交互に作業に当たったが、力を入れ過ぎて人差し指と中指の爪と指の間が、切れて出血してしまった。結婚した当初、妻に、深爪気味で切り揃えていたことを指摘されたことが思い出され、力仕事をする時の爪の役割とヤワな手を実感することになった。

リーダーと副リーダーは様子を見ながら、時に私の担当していた作業を行い部品の不具合を確かめた。ところが、彼らが替わって行うと、それ程、不具合のある部品には当たらなかった。腕力的には、少なくとも人並みレベルを自負していた私の自信は、簡単に崩れてしまった。力だけではうまくいかないと頭で理解していても、初日ということもあり要領をうまく探し出すことができなかった。

作業場所の環境も私にとっては過酷だった。少しでも早く作業に取りかかりたい私は、前工程が終了してライン上を流れ、手に届く位置にくる前の場所に移動して作業した。つまり、前作業者と私の中間地点となる場所に移動して、早めに作業に取りかかった。早く作業しなければならないという焦りからだ。

そうして作業を進めながら本体と一緒になって移動した。その後も、次の工程に流れていく本体にくっついていきながら作業した。とにかく、身体の移動が可能な左右の場所を最大限に利用して作業にあたった。

作業場所で、溝の上り下りを、約200回繰り返したことになる。同日(昼勤)の冷蔵庫生産台数分約650台中、約3分の1として、その繰り返しは足腰にかなりの負担がかかった。3時の休憩時間を終えて溝に入った時、足の踏ん張りが効かず足首を捻ってしまった。幸い捻挫をするまでには至らなかったが、終業時は溝から足を上げるのがとてもつらく、自宅までの道のりが異常に遠く感じた。

Cラインから応援にきていた、二十歳代の金髪に染めた100キロはゆうにある肥満体の工員が、私の仕事ぶりを見て、副リーダーに「前に来てくれたにいちゃんはどないしたん。今日のは外れやな」と話していたのが聞こえ、自分が情けなかった。

大汗をかきながら、やはり部品をうまくはめ込むことができないケースが多い金髪肥満体の彼の作業ぶりと、私の作業は同じようだったが、聞こえないふりをした。

回転灯点灯させ視線を浴びる

作業場所の上部から垂れ下がっているスイッチを引っ張ると、古びた回転灯のランプが点灯して回りだす。同時に作業区域にメロディが響き渡る。部品の取り付けがうまくいかなった合図だ。ラインが止まる。約60メートルのラインに並んだ作業者全員の手が止まる。


メロディと回転灯の黄色い明かりを確認するため、各持ち場にあるいずれかのランプを見上げる。次に停滞している作業場所を探し、視線を送る。批判的な尖った眼差しではないが、注目される立場からすると、単純作業もこなせない自身の不甲斐なさと、ライン全体の作業者に迷惑をかけているという罪悪感が蓄積していく。自分の持ち場でラインを止めてしまうことに、抵抗を覚えた。

しかし実のところ、ライン停止は一息入れることができるホットする時間であることを、数日後に実感した。ラインが止まると、一時的ではあるが休息できるためだ。それは、目標生産台数達成を気にかける責任者以外の作業員共通の思いのようだ。作業中断中は腰を下ろしたり、隣同士で話しをしているケースが多く見られた。

翌日も同じ仕事を覚悟していた私は、始業10分前にラインの前に立ち、開始と同時に一人で作業に取りかかった。すると、慣れたせいか、昨日よりスムーズに部品の取り付けが行えた。30分ぐらいして「今日はなんとかこなせるかもしれない」という、弱々しい自信のようなものが芽生え始めた時、リーダーに声をかけられた。

おだやかな口調で作業場所の移動を告げられた私は、そこから7工程後の場所に連れて行かれた。連れて行かれるというより、先に立って案内するという表現が適切に思えるほどの配慮だった。仕事ぶりを否定されることもなく、あくまで適正を判断しているという態度に、少し救われた気持ちだった。

生まれて初めてのエアードライバー

私に与えられた新しい仕事は、床面に足場を組んでラインと同一の高さにある場所に立ち、エアードライバーを使って、部品をネジ止めする作業だった。
「エアードライバーを使ったことはありますか」と尋ねるリーダーに、私は「ありません」と答えた。エアードライバーは、空気圧を利用して先端部を高速で回転させるねじ回しだ。強力な回転力を発揮するため取り付ける部品のネジ穴が多少ずれていてもその推進力によって、ある程度強引に押し込むことができる。

最初に与えられた仕事は1種類のネジをエアードライバーを使い、5カ所止めることだ。30分ぐらいは作業者の後に立って、見学するように指示された。
担当を替わる場合は、現作業者の作業内容を見学することから始められる。その後、半分の作業を受け持つなどして徐々に慣れていき、完全に交替した後、前任者が新しく担当した作業者を見守るために現場に止まる。

生まれて初めて手にした鉄製のエアードライバーは、手に取るとズシリと重かった。握りの尻部分から先端に向かってヘラのような形状をした金属製スイッチが付いていて、底の中央にはエアー供給用のビニールパイプが取り付けられている。

握り加減によって回転速度が調整できるスイッチは、指が馴染むようドライバーの握り円周に沿って湾曲していた。強く握るとビットと呼ばれる+タイプの先端部分が高速回転する仕組みだ。全体の印象としては、クリップ付きのボールペンを大きくしたような形状だ。

エアードライバーは数種類あり、取り付ける部品によって使い分けられる。
私に渡されたドライバーはそこでは最も軽いタイプだった。本体の直径は約4センチ、長さ約17センチ。ビットが長めの約6センチあった。
それ以外は、それよりすべて直径が太いタイプだった。重い太めのタイプの方が回転速度が早くトルクが大きいので、大きめのビスを止めるのに使われる。
 
「しばらく続けられそうだ」

私に与えられた仕事は、小さめのビスを5本止める作業だったため、小型のドライバーが適していた。翌日、初日に私が担当した冷蔵庫下部の取り付け作業は、クリスタルサービス所属の30代の男性が新たな担当となっていた。

冷蔵室内の部品3種類のネジ止めを命じられた私は、どうやらエアードライバー担当者として合格点を得ることができたようだ。ラインを止めることなく順調に仕事をこなした。前工程の作業が終了する間、20~30秒待機するほどの余裕もあった。

前作業終了を待つほんのわずかな時間は、少し優越感を感じる瞬間でもある。「これなら、楽だな、しばらく続けられそうだ」と思った。不器用ではないと自負していた私にとって、小さな自信となった。しかし、生産効率を追求するライン生産がそんな悠長な状態を長く放置するはずがなかった

「おっちゃんら」にため息

エアードライバーの仕事が3日ほど続いた後、前隣で別の作業者が行っていた、庫内に部品をセットした後、私と違うタイプのビスを4カ所止めていた作業も行うよう指示された。

隣同士になった彼は私と同年代だったことから休憩時間を一緒に過ごすことが多かった。高槻から通っていた話好きのKさんは以前、健康器具の会社に勤めていたらしい。高校2年生の娘がいて、もう少しで子育てが終わることを、子供2人がまだ小学生の私に対し、少し誇らしげに語った。

Kさんと隣同士になって2日目のこと。定時で仕事を終了し、別棟にある更衣室で着替え、帰宅しようとしていた時、コラボレートの社員があわてた顔でやってきて残業があると告げられた。

説明によると、朝礼で残業の要請があったらしく、その際、全員が了承したとのことだった。リーダーの話す声が小さかったため、Kさんと私は聞き逃したようだ。

ラインに戻ると、Kさんと私の持ち場にリーダーと副リーダーが入って作業が行われていた。ほぼ全員の作業員が我々に鋭い視線を投げて寄越す。「すみません。朝礼の時、残業のことがよく聞き取れなかったので」と声をかけながら受け持ちの作業場所に入るが、彼らの表情が和らぐことはなかった。

1時間の残業が終わって、再びリーダーに謝ると「気をつけてください」と注意された。横にいた副リーダーが、「朝礼の時に言うたやろ、困るで。他のみんなは分かったとったやないか、おっちゃんらだけやで」と、我々を強い語調で責めた。すると、Kさんが「何を言うとんねん。もっと大きな声でしゃべらんかい」と声を荒げた。

私は落ちつくようなだめたが、修まらないKさんとリーダーらとの間で言い争いになり、「(上の人間の居る)事務所で話そう」というKさんの言葉で、コラボレートの事務所がある2階に4人で上がっていった。

両者の間に立つ形になった中途半端な気持ちの私は、2階の事務所でコラボレートの社員を待つ間、「もう帰っていいですよ」とKさんとリーダーの双方に言われ、ためらうことなく「それじゃ、お先に失礼します」と更衣室に戻った。

30代後半の副リーダーが言った「おっちゃんら」という言葉が頭を離れなかった。「おっちゃんはないだろ」と帰りのバスの中で繰り返し思ったが「やっぱり、おっちゃんに見えるのか」と50歳を超えた自身の顔を車窓に映すと、ため息がついて出た。

大きくなったリーダーの声

その日の就業計画は、事前にボードに掲載されていて、残業も確認することができる。他の工員は当日の残業は当然のことと認識していたらしい。ボードの利用方法を教えられていなかったとはいえ、その存在を認識していながら、内容を理解しようとしなかった我々の不注意だともいえよう。

ただ、リーダーの声が大きかったら我々が認識できたのは事実だった。結果的には、翌朝からリーダーの声は大きくなり、その日の伝達事項を全員に確認するようになった。

私の作業場所よりも、2工程前に移動したKさんは、3日ほどして時給1100円の夜勤に替わっていった。契約時に、1週間ほどで21時~4時45分までの夜勤に替わることを条件提示されていたためだ。その後、Kさんとは、私が出社するのと入れ違いに帰宅する時、数回顔を合わせただけだった。

2週間後に腱鞘炎の症状

ほどなくして私には、新たに3種類の部品を止める作業が加わった。ネジの数は、製氷用給水タンク架台の3カ所と庫内灯の笠4カ所、それと左右対称ドアを受け止める部品2カ所の計9カ所だ。ここから2週間後に腱鞘炎の症状が現れることになる。

給水タンク架台と庫内灯笠のネジは同じ種類で、ドア受け用は一回り大きい。これらの部品を本体にネジ止めしていく。これを一日中繰り返し行う。今まで二人で行っていた仕事を一人で担当するようになったため、単純にいうと倍の仕事量だ。

それまでは、数秒間の待機時間を持てる余裕があったが、まったくなくなった。ラインスピードは、日産650台ペースの場合、毎秒約3センチのスピードで流れる。冷蔵庫本体が、目の前の1メートルを約30秒で右から左に流れていく。一台終了すると立ち位置の後に運ばれてくる部品を手に取り、次ぎの本体に取りかかる。

部品の供給は、余分な在庫を持たないジャストインタイム方式。ライン稼働中にトラックが部品を下ろしていく。ラインに沿って立つ作業者の後に、冷蔵庫に取り付けるための部品が並ぶ。大半がプラスチック系のため、段ボール箱や軽いプラスチック製のコンテナを使用していた。
トラックから降ろして蓋を開け、そのまま台車に乗せてそれぞれの作業場所に送る列に加えられる。

足の痺れも

前の作業員が終わると、私は間髪を入れずに本体に身体を突っ込む。私の作業担当は、冷蔵室部分の底部奥と天井に取り付ける部品のため上半身を庫内に入れ、手に持った部品を取り付けてネジ止めする。これを、1日に650回繰り返すのだ。

冷蔵室内に身体を入れる時、片方の足で身体を支えるため、2~3週間すると右足が痺れた状態になってくる。仕事を辞めた1ヵ月後に、足の親指の爪の内側から内出血した後が現れ始めた。痺れは、辞めた一年後まで残った。

慣れると、スピードが上がって余裕が出てくるため、待ちの時間が出てくる。すると、リーダーから新たな作業が加えられる。余裕のある作業者が、いないよう調整するのがリーダーの役目だ。全作業者が、一心不乱に冷蔵庫に向かって作業している状態を作り出すのが彼らの仕事だ。

「余裕」は否定

当初私は、ベルト付の2種類のネジを入れることができるケースを腰から下げ、1本ずつ取り出してドライバーで締め付けていた。すると、リーダーから一度に取り付けるネジの数、7本を目安に取り出すようよう指導された。
「それはそうだ」と納得しながらしばらく取り組む。徐々にスピードが上がってくると、次にドライバーの持ち方に関する指導が行われた。

給水用架台を取り付けるネジを、私は、ドライバーを逆手に持って取り付けていた。その場合、天井に取り付ける庫内灯の笠をネジ止めする時、ドライバーを持ちかえる必要があった。その時間がロスとなるので、最初から順手で持って、すべてのネジを止めるよう指導された。

確かにその方が効率的だった。作業スピードは、格段に上がった。慣れてきて余裕が出始めると、庫内灯のカバーを手にとって 、最後に嵌めるよう要求された。それでも前後の作業者の流れを妨げることなく順調に作業をこなした。ライン生産では、余裕を否定する。生産工程で余った時間は、他の工程に割り当てられる。コンマ数秒を短縮して、生産効率を高めることが求められる。

流れてくる商品を、いかに正確に早く仕上げるかだけが、ここでの重要事項だ。作業員が生身の身体であることは考慮されない。
ネジ止め作業の中で、ドア受けの2カ所を止める作業が最も力を要する部分だ。従前担当していたKさんは、私より二回り大きいドライバーを使用しネジ止めしていた。

大きめのドライバーは重量も重いため、手首の返しを頻繁に行う私の作業には適さない。それに、ドア受け部品は、単に強めのトルクで回すだけではうまく収まらない。雌穴を正確に捉え垂直に差し込まないと横ズレしてしまうのだ。リーダーが手本を示したのは、小型ドライバーでネジを正確に止める方法だった。

その際、小型ドライバーで強く押し込む必要があった。方法としては、小型ドライバー全体を強く握りしめて押し込むか、手の平にドライバーの柄の後端を押し当てて押しつける方法だ。どちらにしてもかなりの力業だった。長時間にわたって作業していると握力が落ちてくるため、どうしても手のひらを使って押し込む方法を採ることになる。

そうすると、小型とはいえ、エアードライバーの振動を手のひらの特定部分だけ強く受けることになる。それが、中指の付け根から約5センチ下だった。ちょうど中指の腱が通っているところで、そこを集中的に刺激した結果、1週間を過ぎた頃から痛みが常態化し、2週間目にはバネ指の症状が現れた。

耐えられないほどの痛みでもなかったため、そのままにしておいたが、初めての経験だったので回復するだろうかという不安はあった。原因が分かっていたため、仕事を辞めれば治るだろうぐらいの感覚でいた。

毎朝、目覚めると、まず初めに軽く握った状態になっている右手に視線を送る。外観上は何の変化もない。意識から外れていた右手に神経を集中させて、恐々と力を入れる。中指を伸ばそうとして動かすと、軽い痛みが走る。
約120度でひっかかる。そこを堪えて伸ばすと、弾かれたように動く。しかし何故か、ドライバーを握って作業している日中は、バネ指の症状が出ることは少なかった。

私の前隣で部品取り付けと配線を担当していた30代の女性は、東芝で働き始めて半年。九州出身で、コラボレートと契約していた。ライン作業に従事するようになって、足の痺れ、肩の痛み、腰痛、関節痛など体調不良に悩まされ、頻繁に病院に通ったそうだ。病院で診てもらうことはしなかった私のバネ指の症状は、離職後、3カ月続いた。

2度目の解雇通知 

6月30日(金)の朝礼でリーダーが「来週(7月)から日産500台態勢になる予定」と話した。午前の作業中にシースタイルの社員から「終業後に集会所に集まるように」と声をかけられた。

同じく、クリスタルからシースタイルに登録を切り替えた、30代男性のHさんも声をかけられたらしい。そのほかには、19歳と20歳の姉妹2人とコラボレート所属の30代の女性一人。私のいたラインからは計5人だった。

どうやら、シースタイルと雇用契約を交わしている派遣社員に加え、コラボレートの、勤務評価が低いと目される派遣社員だけが呼ばれたようだ。定時で終わった後、シースタイル所属の派遣が指定された場所に行くと、約40人がすでにいた。話の内容は、解雇通知だった。6月21日にシースタイルと契約した私は、そこから8日間働いた6月30日に解雇通知を受けた。

300人をリストラ

解雇理由は、冷蔵庫の販売不振のためだった。シースタイルの社員の説明によると、東芝は、大量の在庫を抱えていて、販売計画の大幅な下方修正が必要だとのことらしい。現在、主に派遣作業員800人体制で生産しているが、今後は500人体制にするという。

今回の解雇通知は第一段階で、今後、段階的に300人をリストラすると説明した。当初から7月末で辞める予定だった私は、それほど深刻に受け止めることはなかったが、他の多くの工員が動揺した。

月曜日、終業後に事務所に立ち寄るようにと、休憩時間中に声をかけられた。事務所では雇用契約書(労働条件通知書兼就業条件明示書)を渡され、サイン、捺印のうえ翌日、持参するよう求められた。

シースタイルと契約する時と同じ内容の雇用契約書だが、期間の定めについては「平成18年7月1日~同7月31日」。更新または期間延長の可能性(あり ・なし)の部分は「なし」が、マルで囲まれていた。

派遣労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前の予告が義務付けられていることから、6月30日の通知は規定を充たしていることになる。これによって、リストラ第一段として40人強が7月31日付けで解雇されることになる。

翌日、捺印した労働条件通知書を提出すると、シースタイルが請け負っている半導体工場での就業を打診されたが、私は断った。すると、解雇までの期間中、新しい仕事を探す目的で欠勤する場合、事前連絡があれば対応するとの申し出を受けた。

 我々、同様、解雇通知を受けたコラボレート所属の女性については、遅刻や欠勤が多いなどの理由をライン仲間が挙げていた。解雇通知を受けた翌々日に就職活動を始めた彼女は、数日後には新しい仕事先を見つけ転職していった。
 
私と同様、2度目の解雇通知を受けたHさんは、現在担当している部分の作業をこなせる人材が他に見当たらないことから、コラボレートと契約した上で東芝での仕事を継続するようリーダーに誘われていた。当初迷っていたH氏は、「しんどい」と言いながらも身体が慣れたので、東芝での仕事を続けることを選択した。

副リーダーは、「8月の夏期休暇が9日間あるものの、9月からは新型機種の生産が始まり、忙しくなる」と話していた。
 7月末まで勤めた私は、これからの仕事の不安もあったが解放された気持ちの方が大きかった。

そうした中、コラボレート自体が東芝とのライン請負契約を破棄されるとのうわさを聞いた。今後、生産の主力を中国に移すとの話もあった。最終日にリーダーに挨拶した際、「僕らも、どうなるか分かりませんよ」と不安げな表情をみせていた。


コラボレートの親会社「クリスタル」は2006年11月、人材派遣会社大手グッドウィルグループ(東京都港区)によって買収された。中核となるコラボレートが「偽装請負」を繰り返していたとして、大阪労働局から昨年10月業務停止命令を受け、グループ全体の業務に多大な影響が出たことが要因とされる。


「請負」の構図
 
東芝家電における、「クリスタルグループ(当時)」それぞれの役割を、明確にみることができる。コラボレートがラインを請け負い、クリスタルグループのシースタイルとクリスタルが、補充的に人員を確保する構図だ。

賃金にも差がみられる。コラボレートは、時給1000円プラス交通費1カ月1万円(月20日出勤で計算すると1日当たり500円の交通費)。シースタイルは、時給1000円プラス交通費同5000円(同250円)。クリスタルは時給900円、交通費1日500円。

クリスタルとコラボレートを比べるとかなりの差があり、一日当たりの手取り額で1000円以上の開きがある。手元にあるクリスタルサービスの給与明細をみると次の通りだ。900円×7.5時間-データ装備費200円(データ装備費=明確な表現は忘れてしまったが、会社内で個人データを維持するための費用だと説明された。2007年8月時点で返還された)=6550円。

そこから所得税270円引かれ、交通費500円が+された6780円が一日の支給額だ。顧客名の欄には、コラボレートと記載されていた。

社会保険の加入は、3カ月以上の長期就業者だけが対象だ。スポット就業の場合、社会保険の加入は認められない。雇用保険については、短期でも加入が可能だ。シースタイルで、「(掛けますか)どうしますか」と問われた私は、不要の旨を告げると「そうですね。負担金がありますからね」との答えが返ってきた。

従事する仕事に、3社間で差はない。同一ラインの中で同じ仕事量をこなす。私の印象では、むしろクリスタルサービス所属の派遣により過酷な仕事が回っていたようだ。

コラボレートが請け負ったライン生産を、維持する目的で人員が補充されるため、後から加わるクリスタル所属の派遣に比較的長続きしない「しんどい作業」が回ってくるのは当然ともいえよう。主流から外れるほど「割の合わない」のはどの世界も同じだろう。

ライン生産はどの作業も過酷だ。しかし、登録会社の違いなど、置かれた状況によって、より過酷な作業を強いられることになるのも事実だ。

また、現場の空気は、新入りにとって非常に重いものだった。私と同時期にラインに加わった男4人(クリスタル3人、コラボレート1人)が、みんな同じ思いを持った。「おはようと言っても返事もしない」と4人が口を揃えて言った。

数ヶ月先輩の彼らは20~30代が中心の、あまり社交的ではない職人気質が大半のようだった。作業員が頻繁に入れ替わる職場環境下で、必要以上に他人に気を遣うことはないともいえよう。むしろ、後から加わった我々の方が異質な存在であったかもしれない。

ライン全体の流れを維持するため、とくに前後の作業員同士は登録会社の相違に関わらず、ごく自然に協力し合っていたことから、人間関係についての議論は、短期就労者が主流となる生産現場では見当違いなことかもしれない。


働きやすい環境の実現を

私が派遣社員として、冷蔵庫のライン生産に従事した東芝家電製造の大阪工場は、2007年3月30日、大阪労働局が労働者派遣法に違反した「偽装請負」にあたると認定、是正指導を行った。加えて同工場での冷蔵庫生産は、競争力強化を目指し2007年9月末付で中国に移管され、その後2008年3月末に閉鎖された。

大型工場でのライン生産は過酷だ。過去のライン生産現場を体験したわけではないが、人海戦術で、よってたかってモノを組み立てる構図は、過去と大差ないように思える。

大量消費を前提とした大型工場での大量生産方式は、人が働く環境としては過酷だ。身体へ負担となる工程を見直し、働きやすい環境を求めることについてもっと議論が行われ、それが具体化されるべきだと心底感じる。

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